ひとりでバスに乗る(後)(00/01/06)
仕事場から帰るバスですが、乗ってきたバスの逆方向にそのまま乗るというわけにはなかなかいきません。ボゴタの市内には一方通行の道が多いため、同じ方向のバスでも違う道を通ったりするからです。
最初に夫から勧められたルートは、例のカレラ15(北向き一方通行)よりも少し東に登ったカレラ11(南向き一方通行)で南向きのバスを拾い、朝バスを降りた場所よりもさらに少し南のカッジェ60で家の近くに行くバスに乗り換えるというものでした。
カレラ11のバスは、夫の話によるとどれもカッジェ60に行くということでした。いえ、厳密にはそうではなく、ブセタがどれも60に行くという話です。11はこれもひっきりなしにバスが通るんですが、近くでバスを待っているらしい人がなかなかバスを捕まえないので、なんとなく、よく行き先を見た方がいいような気がしてしばらく待っていました。
でも、いつまで待っていても切りがないので、とりあえず適当なバスに乗ったら、妙に高くて(750だったかな?)「ちぇっ」とか思ってしまいました。
このバスは少し走ると13に路線を変えてから南下しますが、13はまさに繁華街という趣。店が並ぶ前には驚くほどたくさんの人が歩いたり露店を出したりしていて、「南米の市街地はこうだ!」という感じです。通行人に混じって、兵士と見分けが付かない制服の警察官がちらほら歩いているというのもポイント。
カッジェ60もまさにそういう感じでした。バスを降りてから60を少し曲がってバスを待ったんですが、たいして広くもない歩道に露店は出ているし、歩道に面した店ではどこで作ったかわからないバッグやなんかを売っているし、本当にここでバスを待っていて大丈夫なのかしらと少し緊張しました。暑いし。
ここでの目的のバスは1本なので、それが来るのをかなり待って、無事に家に帰りました。しかしこのバスが通るのは家の近くの幹線道路、アベニダ・ロハスなので、雨の日の帰りには向かないなと思いました。雨が強く降ると、このロハス通りは川になってしまって渡れなくなるのです。
でも結局、このバスで帰ったのは1回だけでした。すぐに、人から別の路線を教わったのです。
それは、ロハス通りとは別の側にある大通り、ボヤカ通りを通るコレクティーボに乗るというルートです。ボヤカ通りは片側1車線のロハス通りとは違い、片側4車線、整備もかなりされていて、大通りの名に恥じません。
コレクティーボは小型のバスというよりはワンボックスカーを大きくしたものといった方が近いです。南米のガイドブックを見ていると、国によって違うようですが、コロンビアのコレクティーボは詰め込めば15人は客が乗れます。ふたりがけの椅子が2列か3列、ひとりがけもそれくらい、最後尾は4人、運転手と背中合わせに2~3人、ここがいっぱいになってしまうと助手席にふたり。
ただし、車の大きさの関係上、立って乗ることはできませんから、座席がいっぱいになってしまうとそれ以上乗せてくれません。
私が勧められたルートは、家の近くと、仕事場の近くのショッピングセンターそばを結ぶもので、乗り換えしなくていいという利点もあります。本当は行きがけも使えるんですが、朝は満員であることが多いので、帰りだけ利用することにしました。帰りに乗るときは始点からなので好きな場所にゆっくり座れるのもいいところです。
最初にこのルートを使う日の朝は、ちょうど夫がその近くに用があるということで一緒に出かけ、バス乗り場をチェックしておくことにしました。場所はすぐわかり、そこらのおそらくバス関係者にいろいろ訊いていた夫に「料金は750ペソらしいよ」などと教えてもらいました。普通のバスでも750ペソであることがあるので、これはけっこう割安なのではという気がします。
さて帰り。朝と同じ場所に行ってみると、確かにコレクティーボがいます。普通のバスト同じようにフロントガラスに立ててある行き先表示を見ると、Av.(アベニダ)BOYACA と書いてあるんですが、その前にC72-68とか書いてあるのが気になります。これは、72から68まではボヤカを通るということなのか?とすると、うちは63だからこのバスだと行かないことに……。
もう一つ気になったのは、窓に「1100ペソ」というステッカーが貼ってあることです。
聞いてる値段と違うし、行き先もなんか不安だし、どうしようかな~と何台かバスが出発するのを見逃しながらうろうろしていると、突然、男性に声をかけられました。
なにものっ、と思って一瞬身構えたら、それが相手に伝わったか、「トランキーラ(大丈夫ですよ)」とか言われて、どこに行くバスを待っているのか、というようなことを訊ねられました。よく見ると、なんか分厚いノートを持っていたりして、バス関係の人だったようです。それに答えて「アベニダ・ボヤカ・コン・カッジェ63」と言ったら、「そのバスだよ」と、やはりさっきのバスを指さされました。ところでこの「コン」というのは with のような意味の前置詞で、「Aという通りとBという通りの交わるところ」という意味で使っているんですが、辞書にはそのような用例がありません。でも通じるからいいです。国によって違うのかも。
さて、教えてもらったバスに乗り(この時にはさっき見たバスとは違うバスでしたが、けっこう頻繁に出るので安心)、もう一度運転手に行き先を確認します。あと、値段がどうかと思ってとりあえず窓のステッカーを指さしたら、「ああ、ボゴタ市内なら750だよ」みたいなことを言われました。どうも、郊外に行くバスのようです。お金を払おうとしたらまたなんか言われたんですが、こっちが理解しないことを察したか、まあいいやみたいな感じでお金を受け取っていました。少し後でよく考え直すと、「バハ(下に)」というような言葉があったので、降りるときに払うということを言いたかったらしいです。
しかし、バスの料金は普通は前払いなので、私以外にも、乗ってすぐに払おうとする人はけっこういました。
さて、ちょうど私の降りる場所で降りる人がいたのでその若い女性に続いて降りようとしたら、その彼女はお金を払わずに行ってしまおうとしました。やっぱり、乗るときに払ったものと思って忘れてしまったんでしょうか。運転手さんが呼び止めて戻ってきたので、私はしばらく降りられないまま待っていたら、私が乗るときから見ていた女性が「ヤ・パゴ、ヤ・パゴ」と言っていました。「私が」呼び止められたのかと思った彼女が、「彼女はもう払った」と言ってくれたらしいです。私の方は降り損なったら困ると思って出口に集中していたのでそちらは見られませんでしたが、ありがとうおばちゃん。
バスに乗り慣れると市内の地理もわりとわかってきて楽しいです。ひとりで出かけられる範囲も広がるし。
しかしこのバスという乗り物、乗り物に弱い人にはお勧めできません。バス本体の問題と道路の問題の両方からか、がたがたと妙な揺れ方はするし、急加速や急ブレーキは日常茶飯事。特にアベニダ・カラカスのバスは乱暴です。コレクティーボは、場合によっては別世界のように乗り心地のいいものもあるのですが。
バスに乗っていて、まず絶対日本でお目にかかれないものといえば、バスの中で営業する人々。日本の路線バスって、そういう行為は禁止されてるんですよね。カラカス通りのバスに特に多いような気がするんですが、彼らは適当な場所で乗ってきて、通路の一番前に立ち、おもむろにしゃべり始めます。何か配り始める人もいます。彼らがバス料金を払っているところをあまり見ない気がするところを見ると、何か提携関係があるのかもしれません。
こういう人にはいくつかのパターンがあります。何か商品見本を配って説明し、また回収して降りていく人。見本ではない商品(本とからしい。私は断るので、受け取ったことがありません)を配り、説明して、買うといった人からお金をもらって立ち去る人。食品見本の時は回収しないようです。あと、自分の、あるいはほかの誰かの窮状を切々と訴え、有志から小銭を募る人。最後のケースは物乞いと言うべきなのでしょうか。
それから、家族を乗せている運転手もいます。タクシーにも多いんですが、特に休日は、よく子供が乗っています。料金を受け取る手伝いなどもするようですが、やはり実際は「一日中ドライブ」のような感覚なのかも。この前は、赤ん坊を抱いた奥さんとふたりの子供、さらに座席の下に犬まで乗っていました。
実にいろいろな人を目にすることができて、まさに庶民の乗りものです、バス。
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これを書いたときと現在の一番大きな違いは、トランスミレニオが走るようになったことです。アベニーダ・カラカスはトランスミレニオ通りとなり、そこを走るバスはありません。従って、バス停もなくなりました。
トランスミレニオの路線に路線バスが走れなくなったことを別にすると、バス事情そのものは基本的に変わっていません。
ただ、料金はかなり上がりました。今は最低でも900ペソ。1000ペソのものが多いです。
きれいな車両も数年前より増えたかも。しかしバスやタクシーの車両は個人所有なので、まだまだ古いものも多いです。ポンコツっぽいタクシーが激減したのとは大きな違いですが、やはりバスは高いので、買い替えるのは大変なのでしょう。
新し目の車両の運転席は基本的に個室です。防犯上の理由と思われます。
また、バスの中で営業したり歌を歌ったりする人々もまだまだ健在です。
↓最近のバス。手前のバスのウインドーに料金が張られているのが見えます。白の1000は通常料金。黒の1050は日・祝日と夜間の料金です。夜間はだいたい夜8時から?

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